調剤事故発生時の対応マニュアル

~ 医療安全の取り組みの中での危機管理のあり方 ~

~迅速、かつ誠意をもって対処する~

2010年1月20日

2016年7月 改定
(株)ファルマ医療安全委員会


はじめに

安全管理を徹底し、医療事故を未然に防ぐ努力は人権を守る医療の柱として重要ですが、ヒトの能力には限界があり、事故の必然性が常に内在しています。

避けられなかった事故の発生時は迅速、かつ誠意をもって対処することが非常に重要です。

そこでファルマ医療安全委員会として2005年11月に調剤事故発生時対応マニュアルを作成しました。

しかしながら2007年2月に全日本民医連保険薬局委員会が作成したマニュアルが発表されるに至り、全面改訂をし、2010年1月に事故対応マニュアルとしました。

その後、見直しをしていなかったことから、今日の求められる薬局業務に照らして必要な見直しをしました。

Ⅰ.「事故」と「ヒヤリハット」の概念

日本医療機能評価機構では、報告対象のヒヤリハットを下記のように定義しています。

  • ① 誤った医療行為等が、患者に実施される前に発見された事例
  • ② 誤った医療行為等が実施されたが、結果として患者に影響を及ぼすに至らなかった事例
  • ③ 誤った医療行為等が実施されたが、その結果、軽微な処置・治療を要した事例

また、報告対象となる医療事故は、下記のように定義しています。


① 誤った医療または管理を行ったことは明らかであり、その行った医療又は管理に起因して、患者が死亡し、若しくは患者に心身の障害が残った事例又は予期しなかった、若しくは予期していたものを上回る処置その他の治療を要した事例


② 誤った医療または管理を行ったことは明らかでないが、行った医療又は管理に起因して、患者が死亡し、若しくは患者に心身の障害が残った事例又は予期しなかった、若しくは予期していたものを上回る処置その他の治療を要した事例(行った医療又は管理に起因すると疑われるものを含み、当該事例の発生を予期しなかったものに限る)


③ ①及び②に掲げるもののほか、医療機関内における事故の発生の予防及び再発の防止に資する事例


Ⅱ.対応の基本姿勢

まず、患者あるいは家族、他の医療機関からの訴え・情報に真摯にむきあうこととします。


1.誠実に、事実をありのままに正確に把握して対応します。この対応のなかで、「医療事故対応」「ヒヤリハット」「苦情対応」に識別します。


2.特に初期の対応は、後々まで影響を及ぼす可能性が高いことを肝に銘じて対応します。


3.薬局側の過誤がある場合は、直ちに正しい薬を持って伺うので今ある薬は服用しないようお願いするなどして、心から謝罪します。


4.事故原因が、例えば薬の充填ミス等の被害が拡大する可能性がある場合は、速やかに調査して被害を最小限にとどめるよう対応します。


5.誤服用の場合、その薬が何であったか、誤服用により起こる可能性を、たとえそれが軽微なことであったとしても事実はきちんと伝えます。


6.明快に説明できないことがあれば率直にそのことを伝え、多少でも不明な点がある時は断定的な言い方は避け、調査した後説明する旨を伝えます。


7.事態について異なる見解があればそれについてもきちんと伝えます。


8.言葉使いには十分注意し、不要な発言、言い訳は慎み、非を相手に押し付けない等の態度で接し、誠意が相手に伝わるよう心情に対する適切な配慮をします。


9.身体への影響を及ぼす事態であった場合には、医療上最善の処置を講ずることを第一に考え、医療機関と連携し、責任をもって適切な対処を行います。


10.対応後に患者等と薬局間のより深い信頼関係が構築できるよう最善を尽くします。


Ⅲ.当マニュアル遵守のための基本的整備、確認事項

1.薬局法人内での医療安全委員会の設置

2.薬局法人の規模に応じた医療安全管理者の配置

  • ① 医療安全委員会委員長(法人の医療安全委員会の運営を担当します)
  • ② 医療安全管理者:法人全体の安全管理を担当する薬剤師
  • ③ 医療安全推進担当者:各薬局での安全管理の責任者(管理薬剤師)

3.患者等からの連絡受け入れ体制の整備

事故発生は時を選びません。開局時間外の連絡先を薬袋、お薬手帳シール、説明書に表示するなどして、24時間相談に応じる体制をとっています。

かかりつけ薬剤師を決めている場合は、個別に開局時間外の連絡先と勤務表を渡しています。

4.法人、薬局内連絡体制の整備

管理者や関係する職員が不在の時でも連絡がとれるよう、職員の緊急連絡先(携帯電話番号等)を一覧にして用意しておきます。

5.事実経過の記録の徹底

事故の発覚から一連の対応が終了するまで、以下の点に留意して電子薬歴の調剤過誤報告に記録します。

  1. 記録は、対応を行う職員が責任をもってします。組織的な対応となる場合は基本的に管理薬剤師が行います。不在時や、管理薬剤師自身の過誤に起因する事故の場合は管理薬剤師が責任をもって記録者を指名します。
  2. 事実のみを客観的に、正確に記録し、感情的表現、曖昧な表現等では書かないようにします。
  3. 患者、家族等の発言や反応、患者、家族等への説明内容も詳細に記録します。


6.証拠および現場保全

事故の評価や教訓化、また場合によっては行政機関が行う立ち入り検査等に協力するため、事故に関連する書類や機器類は、破棄や改ざんはせず保存します。

7.薬剤師賠償責任保険制度への加入

薬局側の過誤による事故の場合、その責任の程度に応じた賠償責任を問われることがあります。責任を問われる対象が薬局開設者、管理薬剤師、その他の薬剤師いずれの場合であっても、保険で賠償できるよう、不測の事態に備え加入します。


Ⅳ.事故発覚から再発防止策構築までの手順

ア)患者・家族等、医療機関からの連絡で発覚した場合

1.事故発覚時の初期対応

(1)初期対応者は連絡を受けた時点で、下記の事項を確認し、内容を正確に記録し、必要な対応をします。
  1. 患者の氏名
  2. 患者以外の方からの連絡の場合、連絡者の氏名、患者との続柄
  3. どのような事故か、処方箋調剤の場合は処方箋発行医療機関
  4. 服用前か、後か
  5. 服用後であれば、服用からの時間(どれくらいの日数服用したか)、患者の状態
  6. 健康被害の有無と、その状態を把握します。患者、家族等から連絡を受けている時は、場合によっては救急車や医療機関へ連絡し、責任をもって受診を促します。
  7. 電話で連絡を受けている場合は、処方薬剤や交付薬剤等を確認の上、折り返し電話する旨を伝えます。直接来局されている場合は、確認する旨を伝え、待っていただきます。
  8. 電話番号(連絡先)


(2)初期対応者は聞き取った事実から情報を整理し、患者影響レベルを把握します。
(3)(2)に基づく対応

① 誤飲、健康被害がなく、すぐに情報が整理でき対応できると判断した場合

ⅰ)患者等への連絡、説明、謝罪等の対応をします。
ⅱ)対応により患者側の理解が得られれば、報告書(別紙様式2)に記入し、管理薬剤師へ報告します。⇒ 対応終了


② 対応により理解が得られなかった場合、誤飲や健康被害がある場合、またはすぐに情報が整理できないと判断した場合は聞き取った内容、初期の段階で講じた対応等を管理薬剤師に報告します。管理薬剤師に連絡がつかない場合は、他の職責者または、法人の安全管理者へ報告し、管理薬剤師へは連絡がつきしだい報告します。


2.管理薬剤師を中心とした対応

(1)初期対応者からの報告を受け、関連するすべての情報を準備、整理、検討して原因を分析し、患者影響レベルを把握します。


(2)(1)に基づく対応

① 薬局側の過誤、および健康被害がある場合は速やかに法人の医療安全管理者①②に報告します。⇒ 「3.医療安全管理者を中心とした事故の対応」へ

② ①以外の場合

ⅰ)患者等への連絡、説明、謝罪等の対応をします。

ⅱ)対応により患者側の理解が得られれば、報告書(別紙様式2)に記入し、医療安全委員会に報告します。⇒ 対応終了

ⅲ)対応により理解が得られなかった場合は速やかに法人の医療安全管理者①②(開設者等)に報告します。⇒ 「3.医療安全管理者を中心とした事故の対応」へ

3.医療安全管理者を中心とした重大な事故の対応

医療安全管理委員会を招集します。医療安全管理委員会委員長である社長は、必要に応じ管理薬剤師等安全管理責任者を招集して臨時の委員会を開き、事実関係を報告した上で対応を検討します。


(1)医療機関への報告

必要に応じ事故発覚からの事実関係を処方医、主治医等に説明します。健康被害がない場合も過誤内容や対象となる薬剤によっては医師に報告します。

過誤、健康被害がある場合は、医師からの指示を仰ぎ、以後も随時連携をとります。


(2)患者、家族等への連絡、説明、自宅または入院先医療機関への訪問

① 薬局側の過誤がない場合、あるいは過誤の認定が保留の場合

開設者、管理薬剤師等の安全管理者が複数で訪問し、事実関係を詳しく説明して相手に理解してもらえるよう努力します。健康被害がある場合は、医療機関と連携して、回復に向けて最善の処置を講じます。


② 薬局側の過誤がある場合

ⅰ)早い段階で事故当事者は患者、家族等に謝罪をします。

ⅱ)開設者、管理薬剤師等の安全管理者が複数で訪問して謝罪し、今後の再発防止を約束します。さらに健康被害がある場合は、医療機関と連携して、回復に向けて最善の処置を講じることも約束します。この時事故当事者を連れて行くかどうかは管理者が責任をもって判断します。


③ 対応により患者側の理解が得られれば、報告書(別紙様式2)に記入し、医療安全委員会に報告します。⇒ 対応終了


④ 対応により理解が得られない場合、法人外の組織への相談を検討します。


(3)危機管理マニュアルに沿った対応

(1)(2)の対応・判断が困難な事例や相談を求めたい事例については、下記の手順を進めます。


① 主治医、所属県連、全日本民医連、顧問弁護士等への報告、相談
法人内で解決するのは難しいと判断されるような場合は早期の段階で相談します。


② ①との相談の上、行政機関への報告・所属薬剤師会への報告・相談をすすめます。

*所属薬剤師会への報告、相談


調剤事故については、2005年11月から適用の報告様式で報告し、その後の対応について相談します。その際には、薬局の窓口となる担当者と薬剤師会の窓口を確認しあい、常に連絡をとれるような体制にしておきます。


*行政機関への報告

患者の健康被害が重篤な場合や被害が複数に及ぶ場合は所属薬剤師会に相談の上、都道府県、市町村、保健所等に速やかに報告を行います。保健所などが行う立ち入り検査を求められたら、指示に従い検査に協力します。

なお、警察への届出については、医師法21条の異状死の判断を伴うため、協力医療機関等との相談も含めて実施することとします(この部分については、『民医連医療』2007年2月号の小西論文を参照)。


*報道機関への対応

状況によっては、取材要請などにより報道機関への発表が必要になることがあります。事前に対応窓口を決めておき、発表する内容を整理し、要点を記して報道関係者に配布する資料を作成しておきます。その際、プライバシーの保護は最も優先されるべきであり、事実の公表に当たっても必ず患者側に事前に確認をとることを忘れないようにします。薬局職員への直接的な取材も有りうることですが、対応窓口を伝えること以外の回答を行わないように徹底します。


③ 薬剤師賠償責任保険制度の活用

薬剤師の過誤による事故の場合、活用を検討します。


④ 医薬品副作用救済制度の活用

薬の適正使用にもかかわらず、起こってしまった重大な副作用の場合、全日本民医連副作用モニターや厚生労働省、メーカーへの報告をし、医薬品副作用被害救済基金を患者、家族等に紹介します。


(4)長期的対応

障害が残るなどの被害により、長期の対応が必要となる場合もあります。特に薬局側の過誤による場合は自宅、医療機関(入院の場合)等へ頻繁に足を運ぶなどして患者の状態を見守り、処方医、主治医等との連携を保ちながら対応します。国の責任が問われる薬害の疑いがある場合は、所属県連や全日本民医連とも協議し、全国薬害被害者団体連絡協議会や弁護士等を紹介して、救済の手助けをします。


(5)事故当事者への配慮

過誤により重大な結果を引き起こした場合には、当事者が精神的に追い詰められた状態に陥っているので、あらゆる面で適切な配慮を講じることが極めて重要です。当事者の上司は、当事者にとっての精神的な拠り所となるような特段の配慮を心がける必要があります。


(6)職員への報告、対応

管理者は、薬局職員に対して事故についての経過や今後の見通し等を説明し、職員全体の意識統一を図ります。薬局組織として明確な見解を提示し、その域を越えた職員からの疑問や意見、質問に対しては開設者の判断に委ねることを徹底します。

また、取材や患者側弁護士等からの質問には、誤解を招くような回答をしないよう、職員に徹底します。


(7)事故の評価、総括と再発防止策の構築および事故報告書(別紙様式2)の作成と説明

事故後の対応が一段落したら、医療安全委員会で、一連の記録をもとに、事故対応の検証と、過誤がある場合には、事故発覚の原因を分析し、今後同様の事故が発生しないよう、再発防止策を検討します。その際は「誰がおこしたか」ではなく「何故おきたのか」を分析し、組織の中に潜んでいる要因を見つけ出し、改善していきます。必要であれば、薬局内の改善にとどまらず、製薬企業、医療機器メーカー、医療機関や県連の薬事委員会等にも再発防止のための検討事項を示し、必要な対応を要求します。


委員会として事故について総括し、事故報告書を作成して職員に伝え、教訓を全職員のものにします。その他必要な場合は、法人外の当事者(患者、家族、医療機関等)に報告し、事故に関する見解を公表、説明します。


イ)薬局の職員が気づいて発覚した場合

1.事故発覚時の初期対応

(1)気づいた職員(初期対応者)は、情報を整理し、患者影響レベルを把握します。

(2)(1)に基づく対応


① 健康被害の可能性がなく、すぐに情報が整理でき対応できると判断した場合

ⅰ)患者等への連絡、説明、謝罪等の対応をします。

ⅱ)対応により患者側の理解が得られれば報告書(別紙様式2)に記入し、管理薬剤師へ報告します。⇒ 対応終了


② 対応により理解が得られなかった場合、誤飲や健康被害の可能性がある場合、またはすぐに情報が整理できないと判断した場合は管理薬剤師に報告します。管理薬剤師に連絡がつかない場合は、他の職責者または、法人の安全管理者へ報告し、管理薬剤師へは連絡がつきしだい報告します。


2.管理薬剤師を中心とした対応

(1)初期対応者からの報告を受け、関連するすべての情報を準備、整理、検討して原因を分析した後、患者等へ連絡し、誤飲や健康被害の可能性がある場合は、以下の項目を聞き取り、患者影響レベルを把握して説明、謝罪等の対応をします。

① 服用前か、後か

② 服用後であれば、服用からの時間(どれくらいの日数服用したか)、患者の状態

③ 健康被害の有無と、その状態を把握します。場合によっては、救急車や医療機関へ連絡し、責任をもって受診を促します。


(2)(1)に基づく対応

① 薬局側の過誤および健康被害がある場合は速やかに法人の医療安全管理者(開設者等)に報告します。⇒ 「3.医療安全管理者を中心とした事故の対応」へ

② ①以外の場合、(1)の対応で患者側の理解が得られれば、報告書(別紙様式2)に記入し、医療安全管理委員会に報告します。⇒ 対応終了

③ (1)の対応で理解が得られなかった場合は速やかに法人の医療安全管理者(開設者等)に報告します。⇒ 「3.医療安全管理者を中心とした事故の対応」へ


3.医療安全管理者(開設者等)を中心とした事故の対応

「ア)患者・家族等、医療機関からの連絡で発覚した場合」の「3.医療安全管理者(開設者等)を中心とした事故の対応」と同じ対応とします。


おわりに

当法人でも、これまでに何らかの事故を経験しています。そこで、非常の事態に於ける、事故発生時の対応の手順を明確にすべく医療安全委員会としても2005年11月にマニュアルを作成しました。今回は、全日本民医連保険薬局委員会が提起したマニュアルを参考に全面改訂しました。当マニュアルを熟知しておくとともに、ファルマに所属する全店舗における業務上の基本的な指針として活用することと致します。なお、本マニュアルは今後、必要に応じて見直していくこととします。

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